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大分地方裁判所 平成8年(行ウ)3号 判決 1998年12月22日

大分県杵築市大字大内七七〇一番地

原告

有限会社吉野産業

右代表者代表取締役

吉野輝雄

右訴訟代理人弁護士

山本洋一郎

大分県別府市光町二二番二五号

被告

別府税務署長 永田康昌

右指定代理人

山之内紀行

和多範明

森敏明

吉良輝昭

五嶋繁喜

星野光賢

今村久幸

田川博

鈴木吉夫

福浦大丈夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が原告に対し、平成六年六月二七日付でした原告の平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの課税期間についての消費税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、電子部品組立製造等を営み、訴外九州松下電器株式会社(以下「九州松下」という。)から原材料の支給を受け、これを電子部品に加工して九州松下に納入する取引をしている原告が、被告から受けた平成二年一一月一日から平成三年一〇月三一日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)についての、右取引に基づく電子部品の売買代金として収受すべき金額の全額が消費税法二八条一項の「課税資産の譲渡等の対価」に該当することを前提とする消費税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分につき、右取引においては、加工賃等のみが付加価値であり、加工賃等以外の原材料の支給は消費税法四条一項の「資産の譲渡」には該当せず、電子部品の売買代金として収受すべき金額から支給材の有償支給に係る金額を除いた残額が右「課税資産の譲渡等の対価」に該当し、右各処分は違法であると主張して、右各処分の取消を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、電子部品組立製造等を営む会社であるが、本件課税期間の消費税について、消費税法三七条(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例。以下「簡易課税制度」という。)の規定を適用して納付税額を算出し、課税標準額を二億六八一四万四〇〇〇円、納付すべき税額を一六〇万八八〇〇円として法定申告期限内に確定申告書を提出した(以下「本件申告」という。)。本件申告に対し、被告は、平成六年六月二七日付で課税標準額を九億八一五三万円及び納付すべき税額を五八八万九一〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を五六万一五〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(以下、本件更正処分と本件賦課決定処分を合わせて「本件更正処分等」と総称する。課税の経緯は、別表一記載のとおり。)。

2  原告は、平成六年七月一五日、本件更正処分等を不服として、被告に対し、異議申立てをしたところ、被告は、同年一〇月一三日付で異議を棄却する旨の決定をした。そこで、原告は、同年一一月一〇日付で国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成七年一二月二二日付で右請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書謄本は、平成八年一月一七日ころ、原告に送達された(以上1、2につき争いがない。)。

3  原告は、本件課税年度において、九州松下大分事業部から支給された原材料(以下「支給材」という。)のみを用いて電子部品の組立加工をし、そのすべての製品を九州松下に納入していた(争いがない。)。右取引は、九州松下と原告との間の取引基本契約書(以下「本件契約書」という。)に基づいてされている(甲二、一七、乙五、一〇、証人今井文男、原告代表者。以下、本件契約書に基づく原告と九州松下との間の取引を「本件取引」という。)。

4  本件取引については、以下の内容の約定があった(争いがない。)。

(一) 原告は、支給材について、善良な管理者としての注意をもって管理しなければならず、他の物品との混同を避けるために保管上及び帳簿上区別しておかなければならない。

(二) 原告は、九州松下の承諾なしには、支給材を目的物の製造以外に使用すること、支給材並びに支給材を用いた目的物の仕掛品、半製品、完成品を第三者へ譲渡、貸与、質入等の処分をすることができない。さらに、原告は、右仕掛品、半製品、完成品にかかる九州松下の所有権が侵害されるおそれがある場合には、直ちにその旨を九州松下に通知してその排除措置をとらなければならない。

(三) 九州松下は、支給材の保管状況及び使用状況等を検査するために、原告の承諾を得て、その工場、事務所等に立ち入ることができる。

(四) 原告は、九州松下が別途定める日現在の支給材の棚卸在庫状況を原則として当該日より二日以内に書面で報告しなければならない。

(五) 原告は、支給材が滅失、毀損、変質等した場合、直ちに九州松下に通知するとともに、当該滅失等が原告の帰責事由による場合、これにより九州松下が被った損害を賠償しなければならない。

(六) 原告は、支給材を用いた目的物の完納、製造の終了、中止、仕様変更等により余剰の支給材を生じた場合、直ちに九州松下に通知し、その指示に従わなければならない。

(七) 有償支給材の所有権は、その代金を原告が支払ったときに九州松下から原告に移転し、それまでの間は、九州松下に留保されている。

(八) 支給材については、九州松下が火災保険契約を締結する。

5  平成五年当時、別府税務署所属の佐藤光一事務官(以下「佐藤事務官」という。)は、同年四月一九日、二〇日の両日、法人税及び消費税の調査のため、原告の事務所に赴き、原告代表者及び本件申告の代理人であった木本謙三税理士(以下「木本税理士」という。)に会い、事業内容の聴取等を行った。佐藤事務官は、右両日、同事務所において、帳簿調査として、原告の九州松下宛の請求書を調査した結果、納品した電子部品について消費税を加算して請求されていたが、原告の申告は、製品である電子部品代と支給材代の差額等(以下「加工賃等」という。)を課税売上として計上し、課税標準を過少申告している疑いが持たれた。このため、佐藤事務官は、本件取引は加工賃等のみの取引ではなく、支給材等の取引すべてが有償取引である可能性があると判断して、その事実確認のため九州松下に対して反面調査を行った。その結果、本件取引において、<1>原告が九州松下の下請業者として電子部品の組立加工を行っていること、<2>電子部品の支給材は、すべて九州松下からの有償支給であること、<3>原告が組立加工した電子部品は、すべて九州松下へ納入されていること、<4>九州松下から原告に請求している支給材の代金すべてに消費税が課されていること、が判明した。佐藤事務官は、以上の調査結果を踏まえて、九州松下からの有償支給材の代金は消費税法上の課税取引に当たると判断し、直属の上司である米田統括官とともに平成六年四月から同年六月にかけて三、四度、原告の事務所ないし別府税務署において、原告代表者及び木本税理士に対し、消費税の修正申告をするよう指導した。しかし、原告は、本件取引については、九州松下が支給材を自己の資産として管理しているものであるとして修正申告を拒否した(乙一二、一三の1、2、証人佐藤光一)。

6  本件課税期間における本件取引は、原告により、事業として、国内において行われた(甲二、一七、乙五、一〇、証人今井文男、原告代表者)。

二  争点

1  本件更正処分が適法か否か。

(原告の主張)

(一) 消費税法は「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とする」(二八条一項)、「国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する」(四条一項)、「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう」(二条一項八号)と規定する。そして、昭和六三年一二月三〇日付国税庁長官発消費税法取扱通達(以下「旧通達」という。)一―四―三は、外注先業者が発注元業者から原材料等の支給を受けて加工等を行った製品を納入している場合について、外注先業者にとって、課税売上高に算入される「資産の譲渡等の対価の額」は、原則として、(1)製造販売契約の方式により原材料等の有償支給を受けている場合は、加工等を行った製品の譲渡の対価の額、(2)賃加工契約の方式により原材料等の無償支給を受けている場合は、加工等に係る役務の提供の対価の額、にそれぞれよる旨定めている。しかし、旧通達五―二―一三は、右の場合について、発注元業者にとって原材料の有償支給のときは、その原材料の支給は「資産の譲渡等」に該当するのを原則とし、例外として、発注元業者がその「原材料を自己の資産として管理している」場合は、その原材料の支給は「資産の譲渡等」に該当しない旨定めていた。旧通達五―二―一三は、直接、発注元業者への加工等を行った製品の納入について例外を定めたものではないが、発注元業者、外注先業者のいずれにとっても、原材料支給型の加工等の外注取引である点で共通であるので、外注先業者にとって有償支給のときでも、発注元業者がその原材料を自己の資産として管理している場合は、その原材料の支給は「資産の譲渡等」に該当せず、したがって、加工後の製品の納入に際して収受されるべき金額から原材料の有償支給に係る金額を除いた額、すなわち加工等に係る役務の提供の対価の額のみが課税売上高に算入される「資産の譲渡等の対価の額」になる旨暗示していた。旧通達後の質疑応答等を踏まえて制定された平成七年一二月二五日付課消二―二五消費税法基本通達(以下「新通達」という。)は、旧通達一―四―三をそのまま存置するとともに、新通達五―二―一六で、「有償支給に係る原材料等について、その支給をした事業者が自己の資産として管理しているときには、支給を受ける外注先等では、当該原材料の有償支給は課税仕入れに該当せず、また、当該支給をした事業者から収受すべき金銭等のうち原材料等の有償支給に係る金額を除いた金額が資産の譲渡等の対価に該当する。」と定め、旧通達五―二―一三を本文として存置した上で、その注書きとして、発注元業者が有償支給に係る原材料等を自己の資産として管理している場合には、外注先業者にとっては、原材料等の有償支給は例外的に課税仕入に該当せず、また、加工等を行った製品の納入に際して収受すべき金銭のうち、原材料等の有償支給に係る金額を除いた金額が「資産の譲渡等の対価」に該当する旨規定した。

このように、新通達が、例外を認めた根拠は、現行消費税法の立法趣旨が付加価値税であることに由来し、原材料等の支給が形式的に有償支給の形式をとっていても実質的には無償支給と同様である場合や、実質的に有償支給であっても原材料等の管理を発注元業者が行うなどの場合には、外注先業者のもとで発生する付加価値は加工賃等に相応するものに過ぎないのであって、消費税の課税もそれに限定すべきであるというところにある。このような立法趣旨からすれば、付加価値を生じる取引のみが同法二条一項八号の「資産の譲渡等」に該当し、付加価値以外の部分の対価は、同法二八条一項の「資産の譲渡等の対価」に該当しないと解すべきである。

ところで、新通達が定める、発注元業者が原材料等を「自己の資産として管理しているとき」との文言は、きわめて不明確で、消費税の課税標準を定める指標としては有用性に乏しい。そこで、発注元業者が原材料を外注先等に払い出したときに仮払金又は未収金に計上し、その原材料を使用した製品、半製品が納入される都度その使用に見合う原材料部分の仮払金又は未収金を消却するという経理処理その他を通じて支給原材料の受払い、数量管理等を行い、最終的な未使用分の材料について、返還を受けるか、その分の対価を授受している場合又は支給材料の品質管理や効率的使用等の観点から、形式的に有償支給の形態を採るものの、原価による支給であり、当該支給材料の受払い、数量管理等を行っている場合には、その原材料等の譲渡をもって「資産の譲渡等」があったとして取り扱うべきではなく、資産の譲渡があったか否かは、観念的、形式的な所有権の帰属、移転の有無、経理処理の形式にかかわらず、付加価値の発生の有無及び取引の実態により判定すべきである。

(二) 本件取引の内容は以下のようなものであった。

(1) 原告は、九州松下が決定した作業工程に従い、ローターカシメ作業、モーターの組立作業を行い、加工後の製品を同社に納入する。右作業はいずれも、支給材にビス締め、圧着を施すだけで、支給材は、その材質、形状に変化を来すことなく、電子部品に組み込まれた形で九州松下に納入される。

(2) 原告の有する四工場のうち、二工場が本件取引に関係しているが、右二工場で電子部品の組立加工に用いられる各部品等(原材料)は、すべて九州松下からの支給材である上、組立加工に用いる機械、器具等の設備も、すべて九州松下から無償で貸与されたものであり、原告は人手を出して組立加工作業を行うのみである。

(3) 本件取引における作業過程は、まず、支給材代単価と加工賃単価が区分して記載された九州松下作成の原価表に基づいて、九州松下が支給材支給時の代金として右支給材代単価と同額の価格を設定し、電子部品受給時の代金として右支給材代単価と右加工賃単価とを加えた額に価格を設定する。

加工工程において、どのような支給材をどれだけ使用して加工に用いるかは、九州松下が指示決定し、その使用される支給材の数量、単価、加工賃の額も原価表で明らかにされている。

そして、九州松下から毎月送付される注文納入予定表を受けて、原告が九州松下所定の用紙に記入して生産計画表を作成し、ファクシミリで送信する。次いで、九州松下から、当該月分として支給する支給材毎に、番号、数量を特定した支給明細表が原告に送付され、原告が九州松下工場内の部品置場に出向いて各部品を受け取る。

加工後の電子部品の納入に際しては、九州松下が仕入明細表を作成送付し、それには、電子部品毎に特定の番号が付され、数量が記載されている。支給材の単価は、九州松下が原告と協議せずに決定し、加工賃の単価だけを原告と協議して決定しており、原告の加工賃の総額が分かる加工費明細表を九州松下が作成送付してくる。次に、九州松下が前月繰越在庫額、当月材料受入額、当月材料消費額、当月加工不良額、差引理論在庫額、実際在庫額、相殺(売掛金)欄、買掛金、在庫補償額、支払額の各税抜金額の各欄がある「共栄会社在庫補償支払検討兼決裁願い」(甲九。以下「決裁願い」という。)を作成送付してくる。この決裁願いに先立ち、九州松下が、支給材の番号別に、前月繰越分、当月入庫分、当月消費分、当月加工不良分、当月末の実際の在庫分が詳細に記載された材料受払総括表を作成送付してくる。また、材料受払総括表を受け、九州松下からの求めに応じて、原告が、九州松下所定の在庫訂正記入表の用紙に記入の上、提出する。

番号別の支給材の出荷数及び消費数、右在庫訂正記入表をもとにした原告の工場内にある支給材の実際の在庫数が九州松下でコンピューター管理され、さらにこれらの情報を合わせた情報が、材料受払総括表として同様に管理されている。

また、標準工数計算書や見積書等も、九州松下が、自ら決定して作成したものに、原告に押印させて提出させたものである。

(4) 九州松下が原告に支給材を支給した日から組立加工された電子部品が九州松下に納品されるまでの期間は、二、三日間に過ぎない。他方、支給材の代金支払時期は支給日の属する月の翌月一五日と定められるとともに、有償支給材の所有権は、その代金を原告が支払う時まで九州松下に留保される定めとなっているので、支給から納品までの間、支給材の代金支払時期が到来せず、支給材の所有権も九州松下に留保されたままの状態で、再び同社に電子部品が納品されるのであるから、結局、九州松下に所有権が一貫して帰属している仕組みとなっている。

(5) 原告は、前記争いのない事実等4(一)のとおり義務づけられている。

(6) さらに、支給材代金の支払は、右代金債権が、翌月一五日において、加工後の電子部品の代金債権と対当額で自動的に相殺される方法で行われており、かつ、支給材単価も同一とされているので、支給材については金銭の授受が全くない、書類上の操作だけの取引となっている。

(三) 組立加工後の電子部品を有償取引する一般の売買であれば、その電子部品の販売価格の内訳原価である原材料代と加工賃は、外注先が決定するはずであるのに、本件取引では、前記(二)(3)のとおり、外注先である原告ではなく、九州松下が決定して加工費明細表を作成送付してくる。また、前記(二)(1)、(4)及び(5)の事実に照らせば、本件取引は、形式的に原材料の有償支給の形態をとるものの、実質は加工賃取引に過ぎないというべきである。

次に、決裁願いの前月繰越在庫額、当月材料受入額、当月材料消費額、当月加工不良額、差引理論在庫額、実際在庫額の各欄は、本来、支給材の買主が在庫数の変動を掌握、管理するための内部資料として作成すべきものであるのに、本件取引では、売主である九州松下が作成送付してきており、また、個々の支給材には、九州松下が記号、番号を付しているから、発注元業者が支給材の受払い、数量管理等を行う場合に該当する。さらに、九州松下が支給材の売掛金を毎月の加工後の電子部品の買掛金から相殺控除している点で、製品が納入される都度その使用等に見合う原材料部分の未収金を消却するのと同質の経理処理がされ、また、九州松下が買掛金差引残高の支払の他に、各月末に原告側にある実際在庫の金額も在庫補償費の名目で支払っている点で、最終的な未使用分の材料についてその分の対価を授受している場合に該当する。

以上のとおり、九州松下は、「製品が納入される都度その使用等に見合う原材料部分の未収金を消却するという経理処理」及び「最終的な未使用分の材料について、その分の対価を授受」するのと同質の処理をしており、材料受払総括表を作成送付すること、在庫訂正記入表を原告に作成提出させること等により「支給原材料の受払い、数量管理等を」細部にわたって徹底して行い、加工賃単価まで決定しているばかりか、でき上がり製品である電子部品の単価は、右加工賃単価と支給の際の支給材単価との合計額に設定されている。

原告は、支給材について、毎月末及び毎期末に棚卸計上をしていない。他方、九州松下が棚卸計上をしていないとしても、それは実態に即した経理処理を怠っているに過ぎず、原告の把握できない取引先の経理処理の形式に原告が拘束される理由はないのであり、このような取引先の経理処理の形式によって資産の譲渡に該当するか否かを判断するのは、法的安定性を害する。また、請求書等の記載も各当事者の主観的認識に基づくものであり、客観性を欠く。

以上によれば、本件取引における付加価値は本件加工賃等だけであり、加工賃等以外の支給材の支給は「資産の譲渡等」に該当せず、支給材の有償支給に係る金額を除いた金額である加工賃等の金額が「資産の譲渡等の対価」に該当することは明らかであるから、本件更正処分は違法である。

(被告の主張)

(一) 「資産の譲渡」(消費税法四条一項)とは、資産の同一性を維持しつつ、それを他人に移転することをいう。これを本件取引についてみれば、資産たる電子部品がその同一性を保持しつつ他人に移転されること、すなわち支給材の所有権が九州松下から原告に、また、加工後の電子部品の所有権が原告から九州松下に移転されることを意味する。

そして、本件取引において支給材が有償で支給されている場合には、支給材の所有権は九州松下から原告に移転し、右支給材を加工した完成品である電子部品の所有権は一旦原告に帰属した後、原告から九州松下に移転することになるので、支給材の売買代金及び電子部品の売買代金がそれぞれ「資産の譲渡」の対価に該当することになる(原告からみると、支給材の売買代金は課税仕入に、電子部品の売買代金は課税売上にそれぞれ該当する。)。新通達一―四―三が、事業者が原材料等の支給を受けて加工等を行った場合、(1)製造販売契約の方式により、原材料等の有償支給を受けている場合には、加工等を行った製品の譲渡の対価の額、(2)賃加工契約の方式により原材料等の無償支給を受けている場合には、加工等に係る役務の提供の対価の額、がそれぞれ課税売上高に算入される課税資産の譲渡等の対価の額となる旨規定しているのは、右の趣旨を明らかにしたものである。

そこで、本件取引における支給材の供給が有償支給であるか否かについて検討するに、本件契約書によれば、(1)原則として、原告が目的物の製造に必要な材料を自主調達するものとし、例外的に九州松下と原告とが協議の上、支給材を有償又は無償で原告に供給することができ(一六条一項)、(2)有償支給材の所有権は、その代金を原告が九州松下に支払った時に九州松下から原告に移転するものとされ(一九条一項)、無償支給材の所有権は九州松下に帰属するものとされている。

本件取引において、九州松下は、原告に対して支給材を供給した場合、これを売掛金として処理し、原告に対し、支給材の代金に消費税を加算した金額を支給材の売買代金として請求している。

さらに、本件取引では、支給材が有償支給であることを前提として、その「支払方法等について」の取り決め(甲三。以下「支払方法の取り決め」という。)がされているところ、実際の支払は、本件契約書の定めに従い、支給材の代金債権と原告が九州松下に納品した電子部品の代金債権とを相殺する方法によってされている。そして、右相殺がされる過程において、九州松下では、下請代金支払遅延等防止法四条二項一号の規制に抵触することを防止するため、「在庫補償」として毎月末の原告の支給材の実際在庫高に見合う金額を支払っているところ、このような在庫補償は、支給材の供給が有償支給であるからこそ必要となるものである。また、この在庫補償は、原告の毎月末の支給材の実際在庫高に基づいて算定されるものであるから、その実際在庫高が理論在庫(前月繰越在庫額と当月材料受入額の合計額から当月材料消費額と当月加工不良額を控除した金額)よりも少ない場合、その少ない部分の支給材代金は原告が負担し、実際在庫高が理論在庫よりも多い場合は、右代金は原告の収益となるのであって、このような取扱も支給材の供給が有償支給であることに基づくものである。

一方、本件契約書では、支給材を使用して組立てられた完成品である電子部品の所有権の帰属について、支給材の無償支給の場合等を除いて、九州松下への目的物の引渡があったときに目的物の所有権が同社に移転するものとされている。したがって、結局、支給材が有償支給であるか無償支給であるかによって、電子部品の所有権の帰属についての定めが異なっているところ、原告は、電子部品を九州松下に納品するにあたり、電子部品の所有権が原告から九州松下に移転することを前提として、電子部品の売買代金に消費税を加算して請求しており、原告が九州松下からの支給材の供給を有償支給として処理していたことは明らかである。

以上によれば、本件取引における支給材の供給が有償支給であることは明らかである。

(二) もっとも、仮に、九州松下が、原告に対して有償支給した支給材を「自己の資産として管理」している場合には、右支給材の供給について、消費税の課税対象である資産の譲渡等が実質的に存在しないものとして、原告が受ける支給材の有償支給は課税仕入に該当せず、九州松下から収受すべき電子部品代金のうち支給材の有償支給に係る金額を除いた金額が「資産の譲渡等の対価」 に該当するというべきである(新通達五―二―一六)。そこで、九州松下が、原告に対して支給した支給材を自己の資産として管理しているか否かについて検討する。

(1) 九州松下では、「支払方法の取り決め」を実行するため及び自社の生産計画を立てるために、次のような処理を行っている。

<1> まず、原告が、毎月末の支給材の実際在庫高に基づいて実際棚卸記入表を作成し、九州松下に送付する。

<2> 九州松下では、送付を受けた実際棚卸記入表をもとに、手書き訂正及び原告の署名押印が未了の材料受払総括表を作成した上、原告に送付する。

<3> 原告においては、送付を受けた材料受払総括表について、内容を確認し、必要がある場合は手書きで訂正して、原告の署名押印をした上、九州松下に送付する。また、在庫訂正記入表についても、実際在庫高に基づいて原告において作成し、九州松下に送付する。

<4> 九州松下では、送付された材料受払総括表及び在庫訂正記入表を「支払方法の取り決め」を実行するためと、自社の生産計画を立てるための資料とする。

(2) このように、九州松下においては、原告の実際在庫に基づく資料によって原告の毎月末の実際在庫高を確認できるに過ぎず、常時原告の実際在庫高がどれだけあるかについては把握していないし、また、理論在庫高を算出することもない。

(3) さらに、本件取引において、九州松下は、原告に対し、支給材を支給した場合、これを売掛金として処理をしており、それによって九州松下の棚卸資産は減少することとなる。

(4) 以上のとおり、九州松下は、原告に支給した支給材について自らがその受払い、数量管理等を行っているものではなく、原告に対する支払を実行するため及び自社の生産計画のために(1)のような処理を行っているに過ぎない。したがって、九州松下が原告に有償支給する支給材について、九州松下がその受払いや数量管理等をしていないこと、すなわち、九州松下が自己の資産として管理していないことは明らかである。

(5) なお、原告は、新通達五―二―一六の注書きを引用するが、同規定は、本文において、原材料支給者から受給者への資産の譲渡があったか否かの判断、本件で言えば、九州松下からの原告への資産の譲渡があったか否かの判断に関して規定しているのであり、原材料の有償支給の場合であっても、事業者がその支給に係る原材料等を自己の資産として管理しているならば、その原材料の支給は資産の譲渡には該当しないとしている。そして、九州松下は、原告に支給した原材料を自らの棚卸資産として計上していないから、これを自己の資産として管理しておらず、また、九州松下自身は、原告への有償支給を資産の譲渡として計上して、消費税を納税しているのである。したがって、本件取引は、そもそも新通達五―二―一六本文の場合に該当しないのであり、本文に該当しない以上、右注書きも本件取引に適用する余地はない。

(6) 以上のとおり、本件取引において、支給材は、九州松下から原告に有償支給されるものであり、かつ、九州松下は支給材を自己の資産として管理していないのであるから、本件取引において、原告の九州松下に対する電子部品の譲渡は、消費税法四条一項の「資産の譲渡」に該当し、原告が九州松下に販売した電子部品の売上高が資産の譲渡の対価の額として消費税の課税売上に該当することは明らかである。そうすると、原告の本件課税期間の課税売上高が、九億八一五三万〇七三一円であるとして行われた本件更正処分は適法である(詳細については、別表二「納付税額等」記載のとおり。)。

2  本件賦課決定処分が適法か否か。

(原告の主張)

(一) 前記争点1に関する「原告の主張」のとおり、本件更正処分及びその前提となる被告の事実認定は違法であるから、これを前提とする本件賦課決定処分も違法である。

(二) 仮に、本件更正処分が適法であるとしても、被告は、木本税理士が本件申告に先立って本件取引に関する本件契約書等を持参して税務相談をした際にも、平成五年四月一九日及び同月二〇日の法人税、消費税の調査の際にも、本件取引の電子部品の売上高が課税売上に該当する旨の指導を怠り、一年以上経過した平成六年六月に突然本件更正処分等を行った点で、原告には、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があるので、本件賦課決定処分は違法であり、取り消されるべきである。

(被告の主張)

(一) 前記争点1に関する「被告の主張」のとおり、本件更正処分は適法である。そして、被告はこれを前提として、(1)国税通則法六五条一項の規定に基づく金額として、本件更正処分により納付すべき税額四二八万〇三〇〇円の一万円未満を切り捨てた後の金額四二八万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額四二万八〇〇〇円、(2)同条二項の規定に基づく金額として、本件更正処分により納付すべき税額四二八万〇三〇〇円のうち、期限内申告税額一六〇万八八〇〇円を超える部分に相当する二六七万一五〇〇円の一万円未満を切り捨てた後の金額二六七万円に一〇〇分の五の割合を乗じた金額一三万三五〇〇円を算出し、右(1)及び(2)の各金額を合計した五六万一五〇〇円の本件賦課決定処分をした。

(二) 原告は、木本税理士が本件申告に先立って、本件取引に関する本件契約書等を持参して税務相談をした際にも、平成五年四月一九日及び同月二〇日の法人税、消費税の調査の際にも、被告が本件取引の電子部品の売上高が課税売上に該当する旨の指導を怠り、一年以上経過した後に突然本件正処分を行ったことが国税通則法六五条四項に規定する正当な理由に該当する旨主張する。

確かに、木本税理士は別府税務署に本件申告前に文書(乙一三号証の2。以下「元本文書」という。)を持参して相談のため訪れたが、その際、木本税理士自身も本件取引が課税売上に該当することを前提としていたのであり、別府税務署員が誤った指導を行ったとの非難を受ける点はない。また、本件課税に係る調査担当者であった佐藤事務官は、平成五年四月の調査の際、原告が消費税の課税標準を過少申告しているとの疑いを持ったが、右疑いについてその時点で判断することが困難であり、結論を出すのに時間が必要で、指導に正確を期する必要があると考え、調査保留として原告に対する直接の調査を中断することとし、原告に対し、消費税の課税標準の捉らえ方に疑義があること及び調査保留とする旨を伝えるとともに、原告と吸収松下の取引の実態を検討した。その後、佐藤事務官は、平成六年四、五月ころ、原告への調査を再開し、その際、原告に対し、前回からの継続である旨を伝えた。しかし、右調査再開に対し、原告代表者から特段の抵抗はなかった。

さらに、佐藤事務官は、九州松下への反面調査、本件契約書等により、原告と九州松下との取引の実態を検討し、最終的な判断をするとともに、原告に対し、調査結果等について説明し、消費税の修正申告の指導を行った。このように、佐藤事務官は、本件取引につき消費税の課税標準の捉え方に疑問がある旨原告に説明した上、慎重に調査、判断し、それに基づいて指導している。

また、国税通則法六五条四項の正当な理由は、<1>税法解釈に関し、申告当時公表されていた見解がその後改変されたり、<2>災害又は盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金等の支払や盗難品の返還を受けた場合等、申告当時適法と認められた申告が、その後の事情の変更により納税者の故意又は過失に基づかないで当該申告額が過少となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるもので、過少申告加算税の賦課が不当もしくは酷になる場合をいうのであるから、仮に、原告が主張するような指導の懈怠が被告にあったとしても、同条項の規定する「正当な理由」があるとはいえない。

そうすると、本件更正処分の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは到底いえないのであって、同条一項及び二項の規定により行われた本件賦課決定処分は適法である。

第三争点に対する判断

一  本件更正処分の適法性について(争点1)

1  前記争いのない事実等に、証拠(甲二ないし一四、一五の2ないし4、一六ないし一八、一九の1ないし7、二〇、乙三ないし八、一〇、一一、証人今井文男、原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、甲第一七号証のうち、右認定に反する部分及び右認定に反する甲第一五号証の1、第二一、二二号証はいずれも採用できない。

(一) 原告は、本件取引において、九州松下が決定した作業工程に従い、ローターカシメ作業、モーターの組立作業を行い、加工後の製品を同社に納入した。右作業はいずれも、支給材にビス締め、圧着を施すものであった。

(二) 本件取引における作業過程は、まず、九州松下から毎月送付される注文納入予定表を受けて、原告が九州松下所定の用紙に記入して生産計画表を作成し、ファクシミリで送信する。次いで、九州松下から、当該月分として支給する支給材毎に、品番、数量を侍定した支給明細表を受けて、原告が九州松下工場内の部品置場に出向いて各部品を受け取る。

加工後の電子部品の納入に際しては、九州松下が仕入明細表を作成送付し、それには、電子部品毎に特定の品番が付され、数量が記載されている。また、九州松下が原告の加工賃の総額が分かる加工費明細表を、決裁願いを作成するために必要な資料として作成送付してくる。

次に、原告が、毎月末の支給材の実際在庫高に基づいて実際棚卸記入表を作成し、九州松下に送付し、九州松下は、右実際棚卸記入表をもとに、材料受払総括表に支給材の品番別に、前月繰越分、当月入庫分、当月消費分、当月加工不良分、当月末の実際の在庫等を記入して原告に送付する。原告は、右材料受払総括表について、内容を確認し、必要がある場合は手書きで訂正して、原告の記名押印をした上、九州松下に送付する。また、在庫訂正記入表についても、実際在庫高に基づいて原告が作成し、九州松下に送付する。そして、品番別の支給材の出荷数及び消費数、右在庫訂正記入表に基づく原告の工場内にある支給材の在庫数を、九州松下はコンピューターに入力する。九州松下では、送付された材料受払総括表及び在庫訂正記入表に基づいて、「支払方法の取り決め」を実行し、自社の生産計画を立てるための資料とし、また、九州松下が前月繰越在庫額、当月材料受入額、当月材料消費額、当月加工不良額、差引理論在庫額、実際在庫額、相殺(売掛金)欄のほか、買掛金、在庫補償額、支払額の各税抜き金額の各欄がある決裁願いを作成する。

九州松下は、原告の実際在庫に基づく実際棚卸記入表、材料受払総括表、在庫訂正記入表によって、原告の毎月末の実際在庫高を確認する機会があるものの、常時原告の実際在庫高がどれだけあるかについては把握していないし、また、理論在庫高を算出することもない。

(三) 九州松下が原告に支給材を支給した日から組立加工された電子部品が九州松下に納品されるまでの期間は、二、三日間である。

(四) 本件取引に関する代金額は、支給材代単価と加工賃単価が区分して記載された九州松下作成の原価表に基づいて、九州松下が支給材支給時の代金として価格を設定し、電子部品受給時の代金として右支給材代単価と右加工賃単価とを加えた額に価格を設定する。支給材の単価は、九州松下が原告と協議せずに決定する。右加工賃単価は、原告と九州松下の双方の協議により、標準工数計算書に基づく標準工数に余裕率を加算した額である加工標準工数にレートを乗じて計算された加工賃をもとに決定されている。そして、その支払方法は、「支払方法の取り決め」において、有償支給材の代金の支払については、毎月末日に、前月末日現在における原告の実際在庫数に当月一日から末日までの間に原告が引渡を受けた数を加え、当月末日現在における原告の実際在庫数を減じた有償支給材を締め切り、その代金と当月末日現在において九州松下が原告に対して負担する注文品の代金その他本件取引に基づく一切の債務とを翌月一五日をもって対当額で相殺する方法により行うものとする旨定められ、実際にこの方法で決済されている。

(五) 九州松下は、原告に対して支給材を支給する際、支給材を引き渡した日に売掛金として経理処理し、これを材料、仕掛品等の棚卸資産として計上しておらず、右支給によって九州松下の棚卸資産は減少する。また、九州松下が、原告から電子部品の納品を受けた際、九州松下は買掛金として経理処理している。

(六) 原告は、本件支給材については、棚卸表の作成も棚卸額の損益計算書及び貸借対照表への計上も行っていない。

(七) 九州松下は、支給材を原告に供給するにあたり、支給材の代金に消費税額を加算した金額を売買代金として請求している。また、原告は、加工した電子部品を九州松下に納入するにあたり、電子部品の売買代金に消費税額を加算して請求している。

2  消費税法は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準を課税資産の譲渡等の対価の額とし(同法二八条一項)、国内において事業者が行った資産の譲渡等に消費税を課することとし(同法四条一項)、「資産の譲渡等」とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう(同法二条一項八号)旨規定している。そして、新通達は、右規定に関し、外注先業者が発注元業者から原材料等の支給を受けて加工等を行った製品を納入している場合について、外注先業者にとって、課税売上高に算入される「資産の譲渡等の対価の額」は、原則として、(1)製造販売契約の方式により原材料等の有償支給を受けている場合は、加工等を行った製品の譲渡の対価の額、(2)賃加工契約の方式により原材料等の無償支給を受けている場合は、加工等に係る役務の提供の対価の額にそれぞれよる旨定める(一―四―三)とともに、有償支給に係る原材料等について、その支給をした事業者が自己の資産として管理しているときには、資産の譲渡に該当しない旨定め(五―二―一六)、その注書きとして、発注元業者が有償支給に係る原材料等を自己の資産として管理している場合、外注先業者にとっては、原材料等の有償支給は課税仕入に該当せず、また、加工等を行った製品の納入に際して収受すべき金銭のうち、原材料等の有償支給に係る金額を除いた金額が資産の譲渡等の対価に該当する旨規定している。

新通達は、本件課税期間及び本件更正処分等よりも後に制定されたものであるが、旧通達後の質疑応答等を踏まえて、旧通達を廃止して制定されたものであり、消費税法の立法趣旨に照らし、合理性が認められるから、ある取引が消費税法にいう「資産の譲渡等」に該当するか否かは、新通達の基準によって判断すべきである。

そうすると、まず、当該取引が、製造販売契約の方式により原材料等の有償支給を受けているものか、賃加工契約の方式により原材料等の無償支給を受けているものかを判断し、前者に該当すれば、原則として「資産の譲渡等の対価の額」は加工等を行った製品の譲渡の対価の額であると解すべきであるが、前者に当たる場合でも、発注元業者が原材料等を「自己の資産として管理しているとき」には、「資産の譲渡等の対価の額」は、加工等を行った製品の納入に際して収受すべき金銭のうち、原材料等の有償支給に係る金額を除いた金額とすべきである。そして、発注元業者が原材料等を「自己の資産として管理しているとき」とは、発注元業者が、当事者間で譲渡があったものと認識している場合は別として、発注元業者が原材料を外注先等に払い出した場合に仮払金又は未収金に計上し、その原材料を使用した製品、半製品が納入される都度、その使用に見合う原材料部分の仮払金又は未収金を消却するという経理処理その他を通じて支給材の受払い、数量管理等を行い、最終的な未使用分の材料について、返還を受けるか又はその分の対価を授受している場合又は支給材の品質管理や効率的使用等の観点から、形式的に有償支給の形態を採るものの、原価による支給であり、当該支給材の受払い、数量管理等を行っている場合はこれに該当し、原材料の有償支給は「資産の譲渡等」には当たらず、したがって、外注先においては、「資産の譲渡等の対価の額」は、加工等を行った製品の納入に際して収受すべき金銭のうち、原材料等の有償支給に係る金額を除いた金額と解するのが相当である。

3  そこで、まず、本件で、九州松下から原告への原材料の支給が有償支給か否かにつき検討する。

前記1の認定事実によれば、九州松下は、本件取引について、原告に支給材を供給する場合、原告に支給材を引き渡した段階で、会計帳簿上、売掛金として処理し、また、九州松下が原告から電子部品の納入を受けた場合は買掛金として処理しており、九州松下は、原告に対して支給材を供給するにあたって、支給材の代金に消費税額を加算した金額を支給材の売買代金として請求し、原告は、支給材を加工した電子部品を九州松下に納入するにあたって、電子部品の代金に消費税額を加算した金額を電子部品の売買代金として請求しているのであり、右各売買代金の決済は、原告の九州松下に対する電子部品の売買代金債権等と九州松下の原告に対する支給材の売買代金債権等とを対当額で相殺する方法によって行われている。

そうすると、本件取引に基づく、原告の九州松下への電子製品の納入取引は、製造販売契約の方式をとっていることは明らかであり、また、相殺による決済により、原告及び九州松下が互いに対価的意義を有する出捐をしているから、本件取引における九州松下の原告に対する支給材の支給は、有償支給であるいわざるをえない。

したがって、本件取引は、「製造販売契約の方式により原材料等の有償支給を受けている場合」に該当する。

4  次に、九州松下が、支給材を「自己の資産として管理」しているか否かを検討する。

九州松下は、本件取引において、前記1(二)で認定した処理を行っているが、それは、原告に対する「支払方法の取り決め」を実行するため及び自社の生産計画策定のためであり、九州松下は原告の実際在庫高を把握しているわけではなく、また、本件取引においては、前記争いのない事実等のとおり、有償支給材の所有権の移転時期が代金が支払われた時となっていること、支給材に係る火災保険契約を九州松下が締結していること、原告が、九州松下との間で、本件取引上支給材を帳簿及び保管において他と区別する約定となっていること及び前記1の認定事実のとおり、個々の支給材に品番が付されていること等の諸事情が認められるが、これらは、いずれも九州松下が、支給材の売掛代金債権を保全するための措置であり、九州松下は支給材の供給を売掛金として処理し、これにより九州松下の棚卸資産が減少することとなることをも考慮すれば、九州松下が原告に有償支給する支給材について、九州松下がその受払いや数量管理等をしているとは認められない。また、九州松下は、本件取引において、在庫補償として、原告に対して実際在庫に相応する金員を支払っているが、これは、支給材のうち、電子部品の原材料として未だ使用されていないものがある場合には、下請代金支払遅延等防止法四条二項一号の規定に抵触することを避けるためのものであるから(甲九、証人今井文男)、これをもって、九州松下が数量管理等をしているとは解されず、最終的な未使用分の材料について返還を受けるか又はその分の対価を授受している場合にも当たらない。さらに、前記1で認定したとおり、電子部品の売買代金と有償支給材の売買代金とが相殺により決済されているが、相殺である以上、対価的意義を有する出捐を伴うのであって、対価的意義を有する出捐を伴わない「原材料を使用した製品、半製品が納入される都度その使用に見合う原材料部分の仮払金又は未収金を消却する」という経理処理とは質的に異なる。

なお、原告は、原告の把握できない取引先の経理処理の形式に原告が拘束される理由はないのであり、このような取引先の経理処理の形式によって資産の譲渡に該当するか否かを判断するのは法的安定性を害する旨主張するが、右に判示したとおり、取引の相手方である九州松下は、自己の財産として管理している意思を有しておらず、また、前記1で認定したとおり、九州松下は、支給材を原告に供給するにあたって、支給材の代金に消費税額を加算した金額を売買代金として請求し、原告は、電子部品を九州松下に納入するにあたり、電子部品の売買代金に消費税額を加算して請求しており、原告がこのような取引の経過から九州松下の経理処理を認識することは可能であるから、必ずしも法的安定性を害するとはいえない。そうすると、九州松下が支給材の在庫管理を行っているということはできない。

したがって、本件取引において、九州松下は、支給材を「自己の資産として管理」しているとは解されない。

5  以上によれば、本件取引に基づく、原告から九州松下に対する電子部品の納入は、消費税法四条一項の「資産の譲渡」に該当し、本件課税期間における消費税の課税売上高は、原告の九州松下に対する電子部品の販売価格の合計額になり、別表二の更正額欄記載のとおりとなるから、本件更正処分は適法である。

二  本件賦課決定処分の適法性について(争点2)

1  前記争いのない事実等に、証拠(乙一二、乙一三の1ないし3、証人佐藤光一)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定に反する甲第二四号証は採用できない。

(一) 木本税理士は、本件申告に先立って、別府税務署を訪れ、本件取引に関する税務相談をした。その際、同税理士は、本件申告について簡易課税制度を適用すると本則課税よりも税額が高くなるため、遡及的に適用しない取扱を被告に求めた。

(二) 別府税務署所属の佐藤事務官は、平成五年四月に法人税及び消費税の調査のため、原告の事務所に赴き、帳簿等の調査を行った結果、原告が消費税の課税標準を過少申告しているとの疑いを持った。

(三) しかし、佐藤事務官は、右の点について、その時点で即時に判断することが困難で、結論を得るのに時間を要し、指導に正確を期すべきであると考えたことから、原告に対する直接の税務調査を中断することとした。そして、同事務官は、原告に対し、原告による消費税の課税標準の捉え方に疑義があること及び税務調査を保留することを伝えるとともに、その後、原告と九州松下の取引の実態を検討した。

(四) 佐藤事務官は、平成六年四月ころ、原告に対する税務調査を再開したが、その際、原告に対し、前回からの継続である旨を伝えたものの、原告側からは、抵抗はなかった。

(五) そして、佐藤事務官は、九州松下への反面調査、本件契約書等により、原告と九州松下との取引の実態を検討し、原告が消費税の課税標準を過少申告しているとの最終的な判断をするとともに、原告に対し、調査結果等について説明し、消費税の修正申告の指導を行った。

2  ところで、国税通則法六五条四項にいう正当な理由とは、<1>税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解が、その後改変されたり、<2>災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金等の支払を受け、又は盗難品の返還を受けた場合等、申告当時に適法と認められた申告が、その後の事情の変更により納税者の故意又は過失に基づかないで当該申告額が過少となった場合等、真にやむを得ない理由があると認められる場合をいうと解される。

そこで検討するに、前記1(一)で認定した税務相談の際に、別府税務署員が、本件取引が課税売上に該当する旨の指導を怠ったことを認めるに足りる証拠はない。また、前記1で認定したとおり、本件課税に係る税務調査において、佐藤事務官は、本件取引につき消費税の課税標準の捉え方に疑問がある旨を原告に説明した上、反面調査等を実施した結果に基づいて過少申告であると判断するとともに、原告に対して修正申告の指導をしているのであるが、原告は、自己の見解に固執して右修正申告に応じなかったものである。そうすると、右の各事情をもって、本件更正処分の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、原告に正当な理由があるとは解されない。

したがって、同条一項及び二項の規定により行われた本件賦課決定処分は適法である。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年九月二五日)

(裁判長裁判官 安原蒲蔵 裁判官 脇由紀 裁判官 後藤慶一郎)

別表一 課税の経緯表

消費税

<省略>

別表二 納付税額等

<省略>

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